Your color is verdure,my color is cherry blossom.

電車で読める虎兎アンソロジー「せかいの欠片」(2012年発行/ひらめ様主催)に寄稿させていただいた小説です。
タイバニ2配信とのことで嬉しくなって。かなり前の作品ですが再録しました。タイバニ作品もまた何か書けたらいいなと思ってます。
(7,789文字)

 熱を与えることと温めることは同じことだと思っていた。

 だから、寝る前に飲むミルクは冬はホットで夏はアイスと決めていた。
 冬は体を温めないといけないし夏は冷やした方が心地良い。
 身体の温め方は知っていても心を温める方法は知らなかった。心が温かかった頃の感覚なんてものは心の引き出しにしまい込んでかけた鍵の開け方も忘れていた。
 良い成績、感じの良い爽やかな笑顔。それだけあれば周りの人間は自分を持ち上げてくれた。
 大衆に好印象を与えられればいい。特定の誰かに認められたいとか振り向かせたいとかいう欲求はなかった。誰かになにかしてあげたいという思いも特になかった。
 人から褒められればそれなりに嬉しいとは感じた。でもそれは何となくしていたインターネットで知っている画像を見つけた時のような、「ああ、そういえばこんなものもあったか」というすぐに忘れてしまうようなものだった。わざわざ記憶に留め置くほどのものだと感じなかった。
 人から感情や思いを受け取り自分が人に与える方法も一緒に引き出しにしまってしまったようだ。
 人から賞賛を受ければ身体は確かに地に着いていると感じられたが、心は反対に体を透過するようにどこか他人のもののようにただ身体の中に在る、というだけだった。
 小さい頃よりも身体はどんどんしっかりとした質量を持って大きくなっていった。この身体と頭で出来ないことなんてなかった。でも心の方は身体と共に大きくなっていたと思っていたのに大きくなる身体に比例することなく歳だったあの日のままの大きさと変わらないままだったようだと最近気が付いた。
 その小さな心の大部分を占めていたものは憎しみだった。
 上辺は余裕のある態度を装っていたが中身は十数年の歳月が過ぎても忘れることのない両親を殺された憎しみでいっぱいで抱えているだけで精一杯で今思えば重たくて持っているのが苦痛だった。
 苦しい、という心の叫びを受信できるだけの余裕もなかった。
 その時の自分は自分のことを理想的だと思っていたし復讐の為の情報が得られればなんでもよかった。
 そんな中だった、あなたに出会ったのは。
 僕の人生設計にとってあなたは計算外だったし下手をすればこれからの人生に欠陥が生じかねないと危惧すべき存在だった。
 正直あなたの存在が邪魔だったし仕事は一人でこなせると思っていた。
 これからの人生も一人で自分の力で目標を達成するんだと思っていた。その先のことなんて考えることもなかった。
 あなたはそのことを疲れないのかと問うた。
 その質問に特に疑問も感じず返答したあの時の自分。
 それが寂しい人生なのだとその時の自分では気付けなかった。
 そんな僕をあなたはただ一番近い場所で見ていてくれたし触れてくれた。
 ただ隣にいてくれるあなたに、出会った頃は少し失礼な態度をとってしまったけれど、寛大というか少し緩いところがあるあなたは気にする様子もなく横に立っていてくれた。今思えばあの時から僕はあなたに甘えていたのかもしれない。
 誰も、自分でさえ気が付かなかった本音の自分を見つけてくれたあなた。
 いつも抜けてるあなたに見つけてもらうなんて正直少し気にいらなかったし、バニーちゃんなんて愛称で呼ばれるのも嫌だけど、あなたの僕をバニーと呼ぶ時の柔らかな感触は嫌いじゃないので特別に許してあげようと思う。

 ピンク色の風が流れている。
 散った桜の花弁がゆらゆらと中空をたゆたうように舞い降りて足元に重なっていく。
「だいぶあったかくなったよなあ、もう桜も散りかけだし見頃を逃さなくてよかったぜ」
 雪の気配が去った季節、虎徹さんに春を見に行かないかと誘われた。

「花見だよ、花見 今頃見頃なんじゃないかと思ってなあ」
「花見…… なんの花を見るんですか 花ならそこの花壇にも咲いてますよ」
「ばっかお前 花見つったら桜だろ。桜 風流があんだぞ花見は」
「風流という概念はよくわかりませんが桜の花は見たことがないので興味はあります」
「え、お前桜見たことねーの そりゃますますおじさん花見したくなったわ」
 驚いたように言いながらも嬉しそうに話す虎徹さんを見ながら、僕も花見というものに興味を持った。
「でしたら他の皆さんも誘って……」
「いんや」
 言いかけた僕の言葉を遮って急に顔を近づけてきた虎徹さんに驚いて一歩下がると耳元でそっと囁かれた。
「お前と二人で行きてーんだよ」
 そう低めに囁いた虎徹さんは、目に悪戯する子供のような光を宿しながらもいつもは見せないぐっと年齢の重みを滲ませていた。おそらく僕しか知らないそのかすかに色気をまとわせた表情に思わず短く息を詰めた。
「……わかりました。では、二人で行きましょう」
 それだけのことでリズムを崩された心臓の音を悟られないように少し俯いて答えた僕を見て、虎徹さんは満足そうに『じゃあ、次のオフの日になー。空けとけよ』とぽんと僕の背中を軽く叩いて言った。

 シュテルンビルトから郊外へ少し車を走らせた人通りもまばらなそこに、その樹はあった。
ふとすれば気がつかないような街の片隅で、新緑芽吹く木々に囲まれてひとつだけが柔らかなピンク色を溢れさせていた。
 花独特の甘い香りを漂わせていないのが不思議なほど、淡いけれど強い存在感を放ち咲き誇った桜は──虎徹さんは春っつったら桜だろ、と言っていた──まさに春の象徴に相応しいと直感的に思った。
「よくこんな場所、知ってましたね」
「あー、ここはたまたま通りかかった時に見つけたんだ。多分知ってる奴は少ねえと思うぞ」
 嬉しそうに話しながら車からレジャーシートやランチセット等諸々を手際よく運び出し始める虎徹さんを見て、
「手伝います」
「おお、悪ぃな」
 車の後部座席から次々と取り出されていく、彼曰く、お花見セットを受け取りながら、よくわからないけれど花見とはピクニックのような感覚のものなのかもしれない、と思っていた。

「ピクニック…… うーん、花見はピクニックとはちょぉっと違うんだよなあ」
「どこがです? 外でランチをとったり、雰囲気はピクニックでしょう」
「どこがって……花見には……風情がある 」
「……あなた本当は風情の意味わかってないんじゃないんですか」
 桜の根元に張ったレジャーシートの上で胡座をかいて所謂どや顔というやつで質問に答えた虎徹さんに不信感を抱きながらも虎徹さんが花見の定番だ、とどこからか買ってきた──団子という串に刺さった米を練って作られたらしい小さな球体──を一つ、口に含んだ。
「これ、お菓子と聞きましたがあんまり甘くないんですね。それに変わった食感です」
「そっかシュテルンビルト辺りで売ってる菓子はやたらあっめえもんなあ。バニーちゃんは和菓子の奥ゆかしい甘味に不慣れってわけだ」
「美味しいとは思ってますよ。どうせ僕は都会育ちです。その前に虎徹さん、奥ゆかしいとかいう言葉も意味分かって使ってないでしょう」
 少し意地悪に言われてむっとして言い返した僕の言葉に、奥ゆかしい……意味……んんん…… と頭を抱え出した虎徹さんを見ながら、
「でも、嫌いじゃないですよ。こういうのも」
 とぽつりとこぼした僕の言葉に、
「ほんまもんの花見ってのはこう、ぶわーっと公園とか並木一帯が全部桜でよ、けっこう壮観なんだぜそこでみんないい場所の場所取りとか大変だったりしてな、大人数でわいわい桜見ながら弁当つついたりすんだけど……」
 本場の花見の説明を懐かしそうに語る声を聞きながら、ふと思って
「なら他の方達も来て下さった方がよかったんじゃないんですかあなたの説明を聞く限り花見とは人数が多い方が楽しいものなんでしょう 」
「いーや、ここは俺の特別な場所なの」
 一瞬意味をはかりかねて疑問符を浮かべ首を傾げると
「んー、特別な奴としかここには来ないってこった」
 なあ、バニー。と言いながら愛しそうに頭に手の平を乗せられて、ワンテンポ遅れてぽっと胸に小さな温もりが灯ったのがわかった。
「バニーはみんなで来た方がよかったか」
 小首を傾げて聞く虎徹さんに
「いえ、これがいいです。それに…こういうのが虎徹さんの言う風流というやつなのでしょう 」
 くすっ、ときっと穏やかだろう笑顔で答えた僕の顔を見つめながら
「わかってんじゃんよ、バニー」
 にっと柔らかく微笑んだ横顔を見て何故だか急に虎徹さんの手の平の温度が恋しくなった。
 太ももの上できゅっと拳を握っていると、意図を感じ取ってくれたらしくさり気ない動作で骨ばってはいるけれど柔らかな手の平で拳をやんわりと包み込んでくれた。
 温もりが包み込まれた拳からじんわりと伝播して心が温まるのがわかった。
 拳から伝わってきた柔らかな温度のものが胸にも浸透して、温かかった。

 薄い窓ガラスを隔てて仰ぎ見た空の色は暗い。
 遥か天空から落下してくる雨粒が、小さいながらも重さを感じさせる音と量で乱雑に窓ガラスを叩く。
 数日前に行った花見の帰りの車中から見た空模様から降るかな、とは思ったがまさかこんなに長く降るなんて。
「桜は……」
「ん なんだ」
 僕の呟きに反応した虎徹さんに、言葉を続けた。
「この雨で散ってしまったでしょうか」
 虎徹さんの部屋。
 窓辺に立つ僕が振り返ると部屋の主である虎徹さんはベッドに腰掛けて先程乾燥機から取り出してきた乾いたばかりの洗濯物を畳んでいた。
 最初は男一人の生活なのにいちいち自分で洗濯までするなんて意外に思ったが、よく見れば少し散らかってるとはいえ部屋はこざっぱりと整頓されているし、いつ見てもキッチンに最低限の食材を切らしているところを見たことがなかった。
 最近教えてもらったことだが、シャツのアイロンもかけられる時間がある時は自分でかけていると知った時は虎徹さんの生活力に驚いた。
 なんか自分でやれることは自分でしてーんだよ、と得意のチャーハンを炒めながら苦笑いする虎徹さんの手際の良さを見ながら、そういえば自分は洗濯はほとんどクリーニングに出してしまうし、一人暮らしになってからは出来合いのものばかり食べて生活していたな、と思い出した。
 いつか機会があったらアイロンのかけ方くらい習得しようと思い、一瞬の回想の後、会話に戻る。
「この前花見に行った桜ですよ。こんなに雨が続いたら散ってしまうんじゃないんですか 桜の花弁は脆いそうじゃないですか」
「そうだなー。もう散ったかもしれねえな」
 微かに憂いを含んだ表情で、でも口調はいつものまま虎徹さんは黙々と洗濯物を片付け続ける。
「なんだか残念ですね。あんなに綺麗なものが散ってしまうなんて」
「桜は散るもんだ。人だってそうだ。はかねえもんだ」
 俺だっていつか散るんだぜ と困ったように笑ってみせる彼に複雑な表情を返すと
「バニーはいろいろ考え過ぎ。ちょっとこれ頼めるか」
「……かまいませんが」
 数枚残った洗濯物を指してベッドから立ち上がってロフトを降りていった虎徹さんの背中を見送ってからさっきまで虎徹さんが腰掛けていた場所に座った。
 洗濯物を一つ手にとってじっと見つめる。
 いつかなくなってしまうもの。
 それは桜の花弁も虎徹さんの存在も同じだ。
 現に最愛の両親はもういない。
 今の僕にとって虎徹さんは既になくなってしまうことが耐えられる存在ではなくなっている。
 あんなに個人に執着がなかった自分が誰かを愛するなんて、それだけもう虎徹さんは僕にとって何にも代え難い、傍らに彼が居るということを自身の前提にしてしまうほどに深く彼の存在が自分の奥深いところに根付いてしまっている。
 ずっとだなんてそれは空想のまやかしだ。現実には永遠に続くものなんてない。
 叶わない願いを抱くのは、痛い。
 虎徹さんのいない僕、それはもう──
「おーい、できたぞ」
「え 」
 考えるのに夢中で虎徹さんが階段を登ってくる気配に気が付かなかった。はっとしてロフトに上がってきた虎徹さんを見ると彼はにかっと笑い両手にそれぞれ持った湯気の立つマグカップを軽く掲げて見せた。その動きと一緒に揺らいで流れの軌道を変えた湯気と虎徹さんを見比べて、ふと不思議な気分になった。

 覗き込んだマグカップの中の液体はいかにも熱そうに湯気を立てていて
「ピンク……色……」
「そ、いちごミルク」
 緩く渦を巻いている液体は桜の色をしていた。そして桜からはしなかった甘い香りがそれからは放たれている。
「今のバニーちゃんにはそれだろうと思ってさー」
「いちごミルク…初めてです。どうしてこれが虎徹さんの家に 」
 桜色の液体が珍しくてカップの中で軽く遊ばせながら問うと
「前に楓が来た時に買ったのが残ってたの思い出してなあ」
「あいつこういうの好きなんだよ、ほら、スーパーで粉で売ってるやつ」
 と言う虎徹さんに小首を傾げると『そっかあ、バニーは知らねえか』と軽く笑った。
「まあ飲んでみ」
 すすめられて一口啜ると普通のミルクよりも数段甘くてやわらかな酸味がした。確かにいちごの味がする。
美味しいです、ともう一口啜ると虎徹さんは
「やっぱな それだと思ったんだよ 」
「? なにがですか」
 ビンゴ と言う虎徹さんに訳がわからず聞くと
「それ、今のバニーちゃんの味」
「え 」
 虚をつかれてぽかんとすると
「甘くてちょっと甘酸っぱいいちごの味。お前の味だよ」
 ちょい貸してみ、と自分のカップを置いて僕のカップを取るとくいっと一口含んだ。
 舌の上で転がすようにして飲み込んでから
「やっぱバニー味だな」
 と満足そうに言った彼を見てよく意味がわからなかったが
「僕はそんなに甘くはありませんよ」
 だいたい、男の僕にそんな乙女チックな夢見ないで下さい、と少し赤くなった顔で言うと彼はからかうようにくくっと笑った。
「会ったばっかの頃のバニーはもっと酸味が強い感じだったな。例えば……そう、フレッシュだしアセロラジュースみたいな」
 アセロラジュースというものも口にしたことがなかったので首を傾げてみせると、
「バニーちゃん小さい頃は何飲んで育ったの?」
 と少し呆れた目でじとっと見られた。
「え、普通のジュースですよ。……と、その前の僕の味とやらのアセロラジュースというのはどういう味がするんですか 」
 相変わらずの目付きで見つめてきていた虎徹さんだが視線を少し外すと
「そうだなー、酸っぱいんだけど舌に残る味だな。果汁というより人工に近い味がする」
 さっと引く味なんだけどなんか記憶に後味が残るんだよな、あれって。回想するように言って
「あれがバニーとの出会いの味かな」
 お前のヒーロースーツの赤によく似た色してるんだぜ、口角を上げて話す彼が本当に楽しそうなのでふと気付けば僕も一緒に微笑んでいた。
 ──本当にすごい人だ。
 そうだこの人との関係性は絆はきっと何があっても消えないだろう。こんなにも僕の中に標を刻んでいる。消しようがないじゃないか。
 僕はこんなにも愛されている。僕も同じだけの想いで返そう。それが僕と虎徹さんをずっとずっと繋ぐものだ。
「本当にあなたは……、ポイントでは勝てても一生勝てる気がしませんよ」
 苦笑して言うと
「だろ お前の隣に立つんだったらそんくらいじゃなきゃいけねえだろ 」
「ふふ、そうですね」
 にやりと笑った彼に挑戦的な視線を送って、それから
「虎徹さんのカップ、それも僕のと同じですか 」
 虎徹さんがまさにカップに口にあてがおうとしていたところで聞くと
「いーや、ほれ」
 口元から離して中身が見えるようにカップを傾けた中の色は
「みどり色……」
「抹茶ミルク、これも粉で売ってるやつ」
 と言ってからくいっと一口飲んだ。
「それ、少しもらえませんか」
「ん、ほい」
 抹茶ミルクのカップを受け取ってそっと口を付けた。
 口の中に流し込むと日本茶独特の香りと少し濃いめの甘味、そして少しの渋さが広がった。
 味わってから喉に流し込み、ふっと笑って
「いちごミルクが僕の味なら抹茶ミルクは虎徹さんの味ですね」
 カップを虎徹さんに手渡しながら少し目を細め声に笑みを込めてそう言うと今度は虎徹さんがぽかんとしていた。
「なんじゃそりゃ、バニーは面白いこと言うなあ」
 なんて言いながら、俺は抹茶ミルク味なの。と本当に面白そうにその言葉を反芻していた。
「色的にもピンクとグリーン、お揃いですしね」
「実際のヒーロースーツの色とは少し違うけどな」
 まあ、同系色ですからいいんじゃないですか、と僕が言うと、
「この年でお揃いかー、痛いオジサンだわ俺」
 と自嘲気味なことを言いながらも嬉しそうに笑った虎徹さんのその表情がとても好きだと思った。
「あ、お前の今の表情良かった。俺バニーのその顔好きだわ」
 どんなバニーも好きだけど特に、と目を細めて本当に愛しそうに言う彼の言葉に
「じゃあ、これもお揃いですね」
「? どゆこと 」
 疑問符を浮かべた虎徹さんの瞳を自分が意識的にできる一番誘う目でちらりと見てからまだ温かいカップを傾けていちごミルクを口に含む。
 口内に広がる自分の味だと虎徹さんのくれた甘さを広げて、体内に虎徹さんの体温をそのまま写したような温度を満たして。
 ゆっくりと味わっていちごミルクを飲み干すと
「お前が幸せならそれでいいからよ」
 眇めた瞳に優しい光を宿した虎徹さんは、すっと手を伸ばして僕の髪をわしゃわしゃとかき乱してぽんぽんと頭を撫でた。
 その動作を僕にする時に彼の年齢の証でもある少しくたびれた皺が深まるのを見ると、僕は本当に幸せな気持ちになる。
 僕は今確かに温かい。
 虎徹さんにも僕から僕の温度を与えられているのだろうか。貰っていてくれていたら嬉しい。
 僕はあなたの隣に在りたい。
 虎徹さんの隣にいられるように在りたい。それが僕のドリームです。
 あなたは僕のヒーローなんですから。
 だからあなただけに特別にバニーと呼んでほしいんです。

 僕が桜の色だと言うなら、あなたのカラーは晩春が初夏に変わる時の新緑の色だ。
 寒さから連れ出してくれるカラー。
 雨があがったらあの桜をまた見に行きませんか、と誘おうと思った。
 花弁の散った後に見せる鮮やかな緑を二人で見る為に。

 数分後。

「バニーちゃん」
「はい」
「洗濯物……畳んでくれておじさんすっごい嬉しいんだけどさ……」
「なんですか」
「頼んだ分、全部握り潰すように畳んであるから……折角シワ取りで乾燥かけたのにシワが……」
「握り潰すようにじゃないです。握りつぶしたんです。能力発動させて力の限り圧縮しました。これで収納が楽です」
「……わー、ほんとだー、収納超楽だわー、バニーちゃん、有……難う……」
「いえ、お礼には及びません」

end