三次元の解像度 -SS「アブサン」

絵描き×絵描き現パロ「三次元の解像度」の小話。
二人でアブサン飲んでる話。画家のストーリー描くならアブサンの話も描きたかった(mnはアブサン好き)

本編読んでなくてもこれだけでも一応読める…かも。
アルジュナくん視点。時系列的には上巻の内容後、カルナさん宅に引っ越してきて大分落ち着いた頃です。

2022.12.18のイベントの無配に掲載していました。
本編はところどころR18ですが、この掌編は全年齢です。酒飲んでるけど。

2022.12 作(1159文字)

 喉が焼けるような熱さ。
 高い度数のアルコールを摂取した事で代謝の良いからだはもう冷え始めている。手指がつめたい。
 擬似的に死にゆくようで気分がいい。
 そういう、退廃的な気分の時もある。
 多くの近代ヨーロッパの芸術家はこれで身を滅ぼしたらしいが頷けるというものだ。
「知っているか、カルナ。当時は幻覚作用もあったらしい」
 酒焼けした声はアルジュナには似合わない。そのまま伝えてくるカルナに目を伏せてくっと口角を上げて笑った。ゆるりと首を振った動作は我ながら緩慢で、動作の遅延の認識も鈍い。どうもかなり酔っているらしい。
 酒に冷えた手でカルナの頬を辿る。生命そのものが熱として指先に触れる。
 ああ、まったくほんとうにこのあたたかさはカルナの生命そのものだ。
「もう今日はやめておけ」
 グラスを取り上げようと伸ばされたカルナの手を避けて、のこりを一気に煽った。
 途端、鋭く熱い液体が喉を焼き、胃に落ちる感覚を辿る前にぐわんと視界が揺れる。

 カルナはグラスの底に膜が張った程度の量、舐めるように舌に転がしただけでひと言、なかなかきついな、と言った。それもそうだ。アルコール度数七十度。最早飲み物ではない。
 苦いような爽やかなような。甘いような燃えるような。この酒独特の風味は形容しがたい。毒、の方が近いような危険な味がして、それがどうにも癖になる。
 中毒、というくらいだ。と益体もない事をくるくると考えた。 本来は薬酒だったはずだ。薬効はなんだったか。水中を舞う泡の方がまだなにか考えていそうだと思える程、思考は取り留めなく実体を失ってアルジュナからぷかぷかと離れていく。
 強いアルコール度数からグラスに注げばすぐに揮発して卓につよく薫る。
 グラスの横に腰掛けているくらいの距離だとちょうどよく爽やかなそれは、一口飲めばその強烈さにがつんとやられるのだが。
 爽やかでどこか妖しい香り。西洋のお伽噺に出てくる魔女の館はこんな匂いがするのかもしれない。
 カルナは素面で自分だけが酔っ払っている。
 何故かこの状況が愉快でならない。同時に眠くて堪らなかった。
「カルナ。私は寝る。
「ここでか? なにか掛けて寝ろ」
 まずは水を飲め、と差し出された水のグラスを無視して繰り返す。
「私は、寝る」
 カルナは酔っ払い特有の軽率な距離感でずるりとしな垂れかかってもカルナは拒んだりしない。
「次はおなじくらい飲め」
「いいだろう。だが、オレはもっと飲みやすい酒がいい」
 なんだ、好みではなかったか。たしかに好き嫌いの分かれる酒ではあるが、なんとなくカルナは好むものと思っていた。
 知らないこともまだまだある。次は甘くしたカクテルでもつくってやるか。
 やれやれと担がれた。
 これだけそのまま体重を預けていれば、カルナといえど重たいだろうなと他人事のように思い、まだ掌中にあったグラスの底の雫をぺろりと舐めた。

拍手やご感想等いただけるととっても励みになります!